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少年の日の思い出:主人公エーミールの人物像と作品に込めたメッセージ

ライターのYUKOです。このエッセイでは、「少年の日の思い出」におけるエーミールのキャラクターと、この作品に込められたメッセージについて考察します。

ヘルマン・ヘッセの受賞歴と代表作

著名な作家、ヘルマン・ヘッセが受賞した2つの賞は?

ノーベル文学賞とゲーテ賞

ヘルマン・ヘッセは、1923年にスイス国籍を取得し、1946年にノーベル文学賞とゲーテ賞を受賞しました。

代表作には「車輪の下」や「春の嵐」などがあり、短編小説「少年の日の思い出」は日本の国語教科書に70年以上掲載されています。

この作品は日本で最も読まれた外国文学作品の一つですが、ドイツ語圏ではほとんど知られていません。

詳しくみる ⇒参照元: ヘルマン・ヘッセ『少年の日の思い出』あらすじと解説【劣等感!...

少年時代の罪

少年時代に収集していたある物を盗んでしまった主人公が、何を苦しめたのか

盗みをしたことよりも、つぶしてしまった珍しいチョウを見たこと

ある少年は幼少期、チョウチョの収集に熱中していた。

同級生のエーミールとコレクションを共有していたが、ある日エーミールの貴重なチョウチョを盗んでしまった。

主人公は盗みをしたことよりも、そのチョウチョをつぶしてしまったことで心を苦しめられる。

エーミールに冷たくあしらわれ、自分の行いに罪悪感と後悔に苛まれた。

主人公の友人である語り手は、この話を聞き、かつて教科書で読んだ「注文の多い料理店」や「幸福な王子」などの物語を思い出す。

それらの作品では、盗みや嘘をつくことの罪深さが描かれていた。

主人公は、自分の行為がエーミールとの友情を壊し、自身の心に深い傷を負わせたことを悟る。

詳しくみる ⇒参照元: 『少年の日の思い出』解説|母が優しくしてくれたのはなぜか|あ...

少年の日の屈辱

少年の日の思い出に描かれた屈辱的な出来事とは?

同級生からの嘲笑

ヘッセの短編「少年の日の思い出」は、12歳の少年が同級生から「そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな」と嘲笑され、深い傷を負う物語です。

この短編は日本の中学の国語教科書に長年掲載されていますが、海外ではほとんど知られていません。

その理由は、訳者がスイスのヘッセを訪問したタイミングが関係しています。

この作品では、少年の蝶集めに対する情熱が嘲笑の対象となり、彼の自尊心が傷つけられます。

少年は貧困ゆえに立派な標本箱を持てず、苦労して集めた蝶を段ボール箱に飾っていたのです。

詳しくみる ⇒参照元: ヘッセの短編「少年の日の (みじめな)思い出」が日本語でしか...

少年の日の思い出のあらすじ

少年がちょう集めをする中で、どのような出来事が少年のプライドを傷つけたのでしょうか

模範的な少年からの批評

少年は夢中になってちょうを集めていたが、友人から立派な収集道具を与えてもらえず、ダンボール箱で集めていた。

ある日、すばらしいちょうを捕まえ、非の打ち所のない模範的な少年に自慢げに見せたが、専門家のように批評されてプライドを傷つけられてしまった。

それ以降、少年はその少年にちょうを見せることはなかった。

詳しくみる ⇒参照元: 【あらすじ・感想】少年の日の思い出を簡単に解説!作者が伝えた...

「少年の日の思い出」の重要用語

ヘッセの小説「少年の日の思い出」で、読書や書き物をする部屋を指す言葉は?

書斎

「少年の日の思い出」に登場する重要な言葉や漢字は、「書斎(しょさい)」という読書や書き物をする部屋を指す言葉や、「幼年(ようねん)」という少年よりも幼い年齢を表す言葉、「習慣(しゅうかん)」という繰り返し行われる行為のこと、「かがめる」という動作や、「ラテン名(らてんめい)」という学問上の世界共通名、「妙(みょう)」という不思議なことなど、多岐にわたります。

これらの言葉は、作品の理解を深める上で欠かせない要素となっており、作者の意図やテーマをより深く読み解くのに役立ちます。

詳しくみる ⇒参照元: 中1国語『少年の日の思い出』の意味調べノート、漢字や語句のま...

ヘルマン・ヘッセの少年時代

ヘッセの少年時代はどんなものだった?

暗く、閉塞感があった

ヘルマン・ヘッセの少年時代は、神童としてエリート学校に通ったものの、壁にぶつかり精神病院に入退院を繰り返すなど、暗く閉塞感に満ちたものでした。

この体験が、ノスタルジックでどこか暗い少年時代の精神を描いた彼の作風に影響を与えています。

詳しくみる ⇒参照元: 小説読解 ヘルマン・ヘッセ「少年の日の思い出」その1~情景描...

蝶の記憶

少年がエーミールから盗んだ蝶はどうなってしまった?

ボロボロになった

ヘルマン・ヘッセの短編小説「少年の日の思い出」は、少年がコレクションしていた蝶を自慢げに見せたところ、隣の模範少年エーミールに欠点を指摘され、盗むことを思いついてしまうという物語です。

少年はしばらくしてエーミールが珍しい蝶を羽化させたことを知り、盗み出してポケットに入れます。

しかし、家に帰る途中で思いとどまり、返そうとエーミールのもとに戻ったところ、蝶がボロボロになっていたことを発見します。

少年は謝罪しますが、エーミールから軽蔑のまなざしを受け、自分が犯した過ちを痛感します。

この経験がきっかけで、少年は自分のコレクションをすべてつぶしてしまいます。

詳しくみる ⇒参照元: 『少年の日の思い出』あらすじ&解説!エーミールとぼくのサナギ...

視点が世界を変える

視点が異なることで、物事の捉え方がどのように変化するか?

世界観が大きく変わる。

小説は、語られる視点によって世界観が大きく変わります。

同じ出来事でも、視点を変えると加害者と被害者の立場が逆転したり、善悪の判断が異なったりします。

これは、現実の社会でも同様で、見えている世界が視点によって一変することを理解することは、より深く現実を把握するために重要です。

この作品では、エーミールが悪く語られているのは、語り手が「自分は善なるものである」と信じたいからです。

しかし、エーミールの視点から見ると、話は全く異なるものになるでしょう。

小説を読むことで、このような視点の多様性を認識し、物事をより客観的に捉えることができます。

詳しくみる ⇒参照元: 「少年の日の思い出」を読む|ことば×思考×学び|Webコラム...

劣等感の破壊力

劣等感のせいで、主人公はどんな行動に出てしまうのか?

盗みと破壊

主人公は、エーミールに対する劣等感から、憧れの蝶を盗み、最終的には破壊してしまう。

エーミールは主人公の謝罪にも怒りを示さず、「君はそんなやつなんだな」と軽蔑する。

主人公はエーミールに原因があるかのように自分自身を正当化しようとするが、全ては主人公自身の劣等感が引き起こしたもの。

過去を振り返ると苦い思い出は誰にでもあるが、抱えて生きていく必要がある。

しかし、過去を打ち明けることで心が楽になる場合もある。

主人公は、一度壊れたものは二度と元通りにならないことを悟り、大人への階段で大きな教訓を得る。

過ちから何を得るかの方が重要だが、元通りになるよう努力することが苦い思い出を消す最善策。

詳しくみる ⇒参照元: ヘルマン・ヘッセ『少年の日の思い出』あらすじと解説【劣等感!...

エーミールの「悪徳」の正体

主人公がエーミールを「悪徳」と捉えていた理由は何ですか?

裕福で模範的な家庭環境

「少年の日の思い出」のエーミールは、裕福で模範的な家庭環境で育った少年です。

彼は標本づくりが趣味で、蝶の羽の修復もできるほどの技術を持っています。

主人公はエーミールの優秀さに感嘆する一方、妬みを抱き、「悪徳」と表現しています。

しかし、エーミール自身は、主人公の部屋に無断で侵入して標本を壊された被害者でもあります。

この事件をきっかけに、主人公とエーミールの関係はさらに悪化し、主人公はエーミールを「悪徳」と見なすようになります。

詳しくみる ⇒参照元: 『少年の日の思い出』のエーミール全然悪くなかった説

少年の日の葛藤と成長

主人公がエーミールの蝶を盗んだ理由は?

大人の象徴を憎悪していたから

『少年の日の思い出』の主人公は、模範少年エーミールを憎んでおり、彼の「大人びた」部分を「子どものくせに大人ぶりやがって!

」と嫌っていました。

この憎悪が盗みの動機となり、エーミールが「大人」の象徴である蝶を盗むという行動に出たのです。

蝶の成長過程は主人公とエーミールの成長過程を反映しており、蝶を盗んだ主人公は、エーミールが自分より優れていることを認められず、成長しきれないまま大人になったことを示唆しています。

詳しくみる ⇒参照元: 『少年の日の思い出』あらすじ&解説!エーミールとぼくのサナギ...

エーミールと「ぼく」の関係

エーミールは「ぼく」のコレクションを知っているのか?

知っている

少年時代の「ぼく」が犯した盗みの罪は、コレクションを潰すことで償われることなく、大人になっても忘れることのできない恥ずかしい過去として残り続けます。

そして、友人宅で蝶のコレクションを見た「ぼく」は、エーミールが「きみのコレクションならもう知っているよ」と言ったことを思い出し、幼少期の罪悪感を思い出します。

このことから、エーミールは「ぼく」のコレクションを知っていたことがわかります。

また、エーミールは「ぼく」が蝶や蛾を粗雑に扱うことを目撃していたため、「ぼく」を軽蔑していたのです。

詳しくみる ⇒参照元: 『少年の日の思い出』あらすじ&解説!エーミールとぼくのサナギ...

「少年の日の思い出」におけるエーミールの潔白

蝶のコレクションを潰したのは誰ですか?

「ぼく」

「少年の日の思い出」で、エーミールが「ぼく」の蝶のコレクションを壊したと思われがちですが、実際には「ぼく」自身が自分のコレクションを潰しました。

エーミールはコレクションの価値を認めず、「ぼく」の蝶の扱い方を批判しただけでした。

エーミールは怒りや暴力に支配されず、一方的な被害者であることが物語の重要なポイントです。

詳しくみる ⇒参照元: 『少年の日の思い出』のエーミール全然悪くなかった説

「少年の日の思い出」の「ぼく」の人物像表現手法

「少年の日の思い出」の「ぼく」の人物像を表現する手法は何か?

3つの手法

「少年の日の思い出」では、「ぼく」の人物像を表現するために3つの手法が用いられています。

1つ目は、「夕方&窓辺」というシチュエーションです。

これは、「ぼく」が外と内の間で移り変わる状態にあることを示し、変化や成長を暗示しています。

2つ目は、「半額縁構成」です。

これは、「ぼく」が物語を語る中で、さらに過去の出来事を回想するという構造になっており、「ぼく」の複雑な内面を表現しています。

3つ目は、「蝶のコレクション」です。

これは、「ぼく」が子供の頃に犯した罪悪感や秘密を表し、成長や成熟の過程における葛藤を表現しています。

詳しくみる ⇒参照元: 『少年の日の思い出』あらすじ&解説!エーミールとぼくのサナギ...

大人の虚しさ

大人になることは、なぜ虚しいのでしょうか?

子ども的なものを捨て去らなければならないから

『少年の日の思い出』では、欲望と現実の対立が描かれている。

最終的に欲望は現実に屈するが、ヘッセはこの過程を理想的に描いていない。

彼は少年時代の思い出を「けがしてしまった」思い出として語り、その原因を盗みとチョウに対する雑な扱いにあるとしている。

この小説のポイントは、最後にもやもやした感じで終わっていることだ。

大人になることは虚しい。

しかし、過去を抱えて生きる人も多く、それらを否定せずに生きることも必要かもしれない。

詳しくみる ⇒参照元: 『少年の日の思い出』解説|母が優しくしてくれたのはなぜか|あ...