工藤会の謎に迫る―なぜ一般人が狙われるのか

2014年9月、警察は頂上作戦を開始し、野村被告ら主要幹部を次々と逮捕した。

その後、工藤会は衰退し、組員は減少を続け、本部事務所も売却された。

頂上作戦から2530日余り。

元組員は事件の関与を否認する野村被告らに疑問を投げかける。

91人の証言者の一人である元組員が、組織の内幕や野村被告を神聖視する組織の実態について初めてカメラの前で語った。

彼らは日常の何気ない音も報復ではないかとおびえ、生きた心地がしないと語り、報復の可能性を感じながらもなぜ法廷に立ったのかを明かした。

元組員たちは、一般女性までが被害者となったことで組織の内幕を語り始め、工藤会の知られざる仕組みや支援体制について証言した。

さらに、裁判に証拠として提出された工藤会の内部映像も入手され、組織の実態が明らかになった。

1990年1月、工藤会本部事務所が家宅捜索を受ける。

警察と組員のやり取りから、工藤会の利益を生んだ主な手段はみかじめ料と暴力であることが明らかになった。

元組員の証言によれば、みかじめ料は月々の商売や公共工事における工事費の一部であり、出し渋ると暴力が行使された。

また、2000年に組の実権が移り、工藤会は更に凶悪化の一途を辿り、2003年には暴力団追放の旗振り役が経営するクラブに手りゅう弾を投げ込む事件が起きた。

北九州に機動隊員など約400人を招集し、警察庁が異例の態勢をとる中、元工藤会組員は警察に対し、国が本気になったら潰されると感じていると語る。

2012年8月には福岡県で暴力団員の飲食店への入店を禁じる標章制度がスタートし、工藤会による襲撃事件が立て続けに起きた。

元工藤会組員は一般市民に手を出すことについても語っている。

元福岡県警刑事部長の尾上芳信さんは、長年にわたり工藤会の壊滅を目指し、悔しい思いや歯がゆい思いをしながら対策に当たってきた。

工藤会は九州最大規模の暴力団であり、一般市民をも手にかける攻撃性から全国で唯一、「特定危険指定暴力団」に指定されている。

尾上さんは、組員を逮捕してもトップの関与が分からず、事件が繰り返される中、暴力の根を断つためにはトップの責任を問い、組織を壊滅させるしかないと語った。

そのために尾上さんは工藤会の頂点に立つ2人を狙い定め、過去の事件を洗い直し、4つの事件で2人を逮捕した。

しかし、事件を指示した直接証拠がない中、証言を積み重ねて、暴力団トップの関与を立証するという異例の裁判が始まった。

取材班は62回の裁判を傍聴し、証言者を独自に取材し、史上初の死刑判決の全容に迫った。

法廷に立つことになったのは、のべ91人の証言者であり、検察が直面したのは、報復を恐れる被害者にどう証言してもらうかという課題だった。

2013年に起きた看護師への襲撃事件で、被害者の証言や法医学者の証言から、野村被告の殺意が明確とされる。

工藤会の最高幹部も事件についてコメントし、検察は組織の指揮命令系統を明らかにするために工藤会の関係者の証言を得ようとしたが、強固な組織性のため容易ではなかった。